淡雪・1
『あぁ・・・燃えるような恋がしたぁ〜い!!!』
滋の声がカフェ中に響き渡ると、その場にいたふたりは思い切りコーヒーを噴き出した。
『ちょ、ちょっと・・・どうしたんですか?いきなり・・・』
桜子が慌ててテーブルを拭く。
『だって・・・クリスマス・・・彼氏もいないし・・・つまんないんだもん』
口を尖らせた滋がテーブルの上に頭をのせて、ふてくされている。
『まぁ、まぁ・・・いいじゃないですか・・・。あ、その日一緒にパーティーしましょうよ!』
『桜子とふたりで・・・?』
『はい』
『ヤダ・・・ヤダヤダヤダ!!!』
ここまでくるとまるで子供。
ふたりにはもう手に負えない状態。
『いいなぁ〜・・・つくしは司がいて』
恨めしそうな滋の視線が痛いつくし。
『あ、でも・・・その日あいつ仕事みたいだし。あたしでよければ一緒にパーティしたいな』
『先輩・・・そんな約束したら道明寺さんが・・・』
桜子がつくしに耳打ちする。
じぃーっと見つめる滋。
苦笑いのふたり。
『いいよ・・・別に・・・同情されたくないもん・・・』
余計にいじけてしまう滋。
『あ、じゃこうしましょう!来週の土曜日に合コン!っていうのはどうですか?』
ピクっと反応する滋。
『合・・・コン?』
『はい!』
『・・・カッコイイ人・・・くる?』
『き、来ます!・・・たぶん・・・』
『たぶん・・・?』
『来ます!絶対に来ます!』
桜子はどうにか滋をなだめようと必死。
つくしもそんな桜子に同情している。
『じゃあ・・・行く』
渋々、納得する滋。
ホッとする桜子。
つくしはさっきから時計を気にしている。
その様子に気づいた桜子。
『どうしたんですか?先輩』
『あぁ・・・。類がね・・・ちょっと話があるっていうから・・・』
少し気まずそうにボソッと呟くつくし。
『それ・・・まずいんじゃないんですか?』
『あ・・・そんなことないの。話したらすぐ帰るって言ってたし。なにか大切な話らしいのよ・・・』
どう考えてもまずいんじゃないのって思っている滋と桜子。
『じゃあ・・・またね』
シーっと指を唇に当てて、そのまま店を出て行くつくし。
つまり・・・司には内緒にしてね・・・と言いたかったようである。
類から連絡が入ったのは昨夜のこと。
最近仕事が忙しくなかなかアパートにも顔を出さなくなった類からの誘い。
司の手前、少し躊躇っていたが大切な友人・類の誘いを断ることができなかった。
指定された店に着くと、すでに類が待っていた。
しかも、今日も眠そうな顔をして・・・
『ごめんね、待たせちゃって』
つくしはマフラーを外しながら類の向かいの席に座った。
『俺も今、来たとこ・・・』
類と待ち合わせするのは初めてじゃないのに、どういうわけか緊張してしまうつくし。
つくしは店員にミルクティーをオーダーするとキョロキョロと辺りを見渡す。
『こ、このお店初めて来たけど・・・すごく素敵だね・・・』
思わず声が裏返ってしまう。
緊張してるのがバレバレである。
『牧野・・・今度のクリスマス・・・あいてる?』
『えっ?』
いきなりの先制パンチにつくしは驚いた。
『あ、え・・・と・・・』
滋や桜子ならまだしも・・・
類とクリスマスは・・・さすがにマズイ・・・
つくしの脳裏に牙をむき出しにした猛獣の顔が浮かんだ。
『・・・やっぱり・・・マズイよね・・・司の手前・・・』
『あ・・・うん・・・ゴメン』
『いや・・・いいんだ。俺が勝手に・・・』
『どうかしたの?』
いつもの様子と違う類に気づいたつくし。
『その日・・・、うちの会社でパーティーがあるんだ。で・・・パートナーが必要で・・・』
『・・・それで?』
『・・・1日だけ・・・恋人のふりして欲しいんだけど・・・』
『えぇ!?』
驚きのあまり大声をだしてしまったつくしに周りの客が怪訝そうな顔をしている。
気恥ずかしくなったつくしは小声になる。
『ど、どうしてまた・・・恋人のふり・・・なの?』
『親がね・・・あまりにも俺が見合い断るから恋人でもいるんじゃないかって疑って・・・。
で・・・答えるのが面倒で思わず・・・いるよって言っちゃったんだよね』
『言っちゃったって・・・あんた・・・』
『うん、言っちゃった』
『ど、どうして・・・あたしなの?』
『牧野しか思い浮かばなかったから・・・』
淡々と答える類。
『あ・・・、あ・・・そう・・・』
これを引き受けたら絶対にマズイ。
でも、類の目を見るとダメとはなかなか言い出せない。
『いいんだ、牧野・・・気にしないで』
気にするなって言われたら誰でも気にしちゃう・・・
つくしは心の中で呟いた。
『話って・・・その話?』
『そ』
類は平然とコーヒーを飲んでいる。
『あ・・・そう・・・』
なんだか・・・気まずい。
つくしの心の中の天使と悪魔が闘っている。
『じゃあ・・俺、まだ仕事残ってるから行くね・・・』
類が席を立ち、細く微笑んで背を向けた。
『類!』
思わず呼び止めたつくし。
類がゆっくり振り返る。
『いいよ、少しの時間なら』
すると類は今までに見せたことの無いような嬉しそうな顔で店を出て行った。
言ってしまった後で・・・
現実に引き戻されたつくし。
自分の言動に思わず青ざめていく・・・
どうしよう・・・
O.Kしちゃったよ・・・
あぁ・・・道明寺に何て言ったらいいのか・・・
自分のお人よしにつくづく嫌気がさすつくしだった。
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